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だからと言うて、悲しんでばかりはおられませぬ」
濃姫は顔を上げ、瞬時に目の前の姑の顔を見据える。
「万が一にも殿がご逝去あそばされれば、浮上するのは御跡目の問題。
幸い殿には、ご嫡男とお定めになられた奇妙殿がおわしますが、何せ赤子故、御跡目は務まりますまい。
とすれば、実の弟君であられる信勝殿に、殿の跡を継いでいただく他ありませぬ」
「……信勝が、信長殿に代わって当主に」【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
「左様にございます。 ただそれは、世の道理に従えば──のことにございますが」
「どういう意味です?」
「かつて殿は、そのご奇行から尾張の大うつけと称された程のお人。まずもって、道理や理屈などを軸として動かれるお方ではございませぬ。
まかり間違えれば、同腹の信勝様を差し置いて、脇腹のご兄弟のいずれかに、ご家督を譲るとのご遺命を残し兼ねませぬ」
「…有り得ぬ、いくらあの信長殿でもそのようなこと…」
「ないと言い切れましょうか? 実際にあの謀反の一件以来、お二人のお仲は芳しくなく、寧ろ冷え切ってゆく一方にございます。
そのような有り様に清洲の者たちも、いずれまた、信勝様が殿に反旗を翻す日が来るのではないかと、日々警戒を募らせているのです」
真摯に語る濃姫を前に、報春院は皺の寄る口元を、気難しげに引き結びながら聞いている。
「うつけとて人の子。自分を裏切り、信頼を踏みにじった者に、何故喜んで当主の座を譲ろうなどと思いましょうや」
「……では、どうすれば良いと言われるのじゃ?」
「信勝殿におかれましては、一度、殿の病気見舞いを兼ねて清洲の城へ参られ、ご兄弟のわだかまりを解かれるよう努めるべきかと」
「信勝殿を清洲の城へ?」
「左様にございます。殿と直に向き合われ、和解のご意識がある旨を、はきとお伝えあそばすのです」
「…なれど信勝殿は、合わせる顔がないのか、あれ以降 信長殿を避けておいでのご様子じゃ。参られるかどうかは分かりませぬぞ?」
「では、義母上様の方から信勝殿にご説得下さりませ」
濃姫は是非にもという語調で、躊躇い顔の姑に訴えた。
「いくら面目を失っているからと言うても、実の弟君が病床の兄上を見舞わぬという法はございますまい。
信勝殿がご誠意をお示しになられれば、殿とてその頑ななお心を解かれましょう」
「しかしのう…」
「何事も、信勝殿の御為(おんため)にございます」
突き付けるような姫の一言に、報春院の心も揺れた。
信勝のこともあるが、濃姫がわざわざこのような話を持ちかけて来るということは、これは単なる例え話ではなく、
信長は本当に信勝に当主の座を譲り渡す意思がないのではないか?と、俄に疑念が湧いたからである。
濃姫は、難しそうな面持ちで黙している報春院の前に、今一度 両の手をつくと、改めて進言した。
「義母上様。私も織田家の嫁として、これ以上家中が乱れてゆく様は見とうございませぬ。
余命短き殿の為にも、せめてご家督の継承くらいは、滞りなく済ませて差し上げたいのです」
「──」
「何卒、お力をお貸し下さいませ」
濃姫の頭が緩やかに下がるのを、報春院は相も変わらず無言のまま、糸のように細い目をして見つめていたが、
既に心は決まっていたのか、それ以上反論することはなく、ただ遣る瀬無さそうに溜め息を漏らしていた。
「不思議なものにございますなぁ」
三保野が縁に白湯を運びつつ、濃姫に語りかけた。
「不思議とな?」
「つい二、三日前まであんなにも殺風景な庭でしたのに、もうこんなにも様変わりして。まるで、もののけの技を見ているようでございますなぁ」
三保野の素直な感想に、濃姫は思わず笑みを漏した。
「もののけとは、また失礼なことを申す。そこは職人方の技というべきであろうに」
「で、ですから、職人方の技が妖術のようで不思議だと言いたかったのでございます」
慌てて言葉を重ねる三保野をちらと見て 【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
「ま、そういう事にしておこうか。…実際、その通り故のう」
濃姫は朗らかに微笑(わら)いながら、再び前庭に目を向けた。
まだ修繕の途中ではあったが、凸凹が目立っていた地面は綺麗に地ならしされ、そこに道を造るように白い敷石が十字の形に敷き詰められていた。
その脇には躑躅(つつじ)などの高さの低い木々が敷石に沿うように植えられ、十字の道の中間には小さな作り池が設けられている。
池の上にはこれまた小さな朱塗りの太鼓橋が架けられており、その奥の左右に大きな二つの花壇。
更にその奥に、新たに植え直された樹木たちが天に向かって賑々しく枝を張っていた。
木々を奥に、花々を手前に配置した為、以前よりも庭がずっと広々として見え、何より典麗で美しいのである。
「なれど姫様、少々樹木が多過ぎはしませぬか?」
木の種類もばらばらで、まるで統一性が感じられないと、三保野は小言を漏らした。
「殿があえてそう命じられたのです。春には桜が咲き、秋には紅葉が色付く。四季の趣がより深く感じられる庭になるようにと」
「左様にございましたか。…にしても、部屋作りが不得手な殿も、庭作りはお見事なものにございますな」
「いや、殿は二、三、案を出されただけで、この庭の設えは殆(ほと)んど職人らが考えたものじゃ」
「そうなのですか?」
部屋同様、全て信長の指揮と考えのもとで行われていると思っていた三保野は、意外そうに目を瞬いた。
「部屋の家具は、用意も設置も殿の思いのままに出来るが、庭ばかりは土地のことから草木のこと、水に至るまでの知識がなくては難しい。
さすがの殿も、職人方の意見を採り入れずして庭を整えることは出来なかったと見ゆる」
「まぁ、でしたら職人さまさまにございますなぁ」
「ほんにのう」
濃姫は三保野と声を揃えて笑いながら、ふと、右手に見える渡り廊下の方へ目を向けた。
侍女のお菜津が、一通の書状を胸の上に抱えながら、足早にこちらへ駆けて来る姿が見えたのである。
濃姫は膝元に置かれていた湯飲みをスッと横にずらすと、お菜津が駆けて来る方向へと身体の向きを変えた。
やがてお菜津が濃姫の部屋の縁までやって来ると
「失礼致します。……恐れながら、お方様に一つ、お伺い致したいことがございます」
姫の前で平伏の姿勢をとりながら、固い表情で訊ねた。
「何じゃ?」
「お方様のお身内、或いは美濃の頃のお知り合いの中に、笠松なるお方はおいでにございましょうか?」
「かさまつ?」
お菜津は頷くと、胸の上に抱えていた書状を姫の前に差し出した。
「美濃からお方様に宛てて、笠松殿というお方からお文が届いているのですが、ご存じではありませぬか?」
「美濃でのう…」
濃姫が思わず思案顔になって考えていると
「姫様、もしや小見の方様にお仕えしておられる侍女の笠松様のことではありませぬか?」
三保野がやんわりと告げた。
そんな桂を下に見て入江は喉を鳴らして笑った。
「さぁ,今日は疲れたのでもう休みましょうかね。松子,ゆっくり寝り。また明日起こしに来る。」
入江は三津の頭を撫でてから立ち上がった。
「木戸さんは?こっちで寝るん?別にいいですよ?向こうに行けば二人の時間はまた減る。今晩は傍におったらいいです。」
入江はおやすみなさいと言い残して一人部屋を出た。残された桂は胡座を掻いて唸り声を上げた。
「構いませんよ?どのみち定期的に様子を見に来はるんでしょ?それやったら一緒に居た方がその手間省けますし。」
「そうだな……。」 【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
『手間を省くとかそう言う話じゃないんだよな……。やはり私と一緒に居たいから同じ部屋がいいとは言ってくれないんだな……。仕方のない事だが……。』
桂にはそれが酷く寂しい。
「……私はあっちで寝るよ。今日は君をゆっくりさせてあげたい。予定外に疲れさせて悪かったね。おやすみ。」
桂は三津の額に口付けをして部屋を出た。
肩を落として部屋に入って来た桂に入江は苦笑した。
「どうしたんです。」
「別に何もない。私と彼女の間に温度差があってそれを受け止めきれないだけだ。片恋は辛い……。」
布団にうつ伏せで倒れ込んだ桂に入江はぶっと吹き出した。
「三十越した男が何を言っちょるんですか。木戸さんの口から片恋……辛いって……。」
面白過ぎると肩を揺らして笑った。
「いいよな,君は愛されてるから。」
「そりゃ私達は一番辛い時期を共に過ごし支え合いましたもん。共に過ごして互いの内面を理解し合った。それだけの話です。
木戸さんは誰よりも先に出逢ってはいたけど過ごした時間は誰よりも短いでしょ。」
「そう……だな……。」
「でも松子なりに木戸さんに歩み寄っちょるでしょう?前よりも貴方に向ける眼差しが柔らかいものに変わっちょる。私が言うんやけぇ間違いない。」
だから元気出してと歯を見せて笑った。
桂はまた恋敵に慰められたなと情けなく感じつつもその言葉に少し救われた。
「松子に好かれるにはどうすればいいと思う?」
ここはもう恥など捨てて教えを請う。
「松子は落差に弱いんですよ。」
「落差?」
「思い出してみてください。松子はいつも大人な木戸さんが子供っぽくなる所にときめいてました。普段見せる一面と別の一面を見た時に射止められるんです。」
「なるほどな。わざとその一面を見せる訳だ。お前の得意分野だな。小賢しい。」
「お褒めに預かり光栄です。」
あからさまな悪口に入江は棒読みで返した。「逆を言えば貴方は自然とそれが出来る。私は小賢しくやらないと出来ないのです。
繕うより天然でそれをされた方が効果的面ですからね。」
「どう言う時にそれをしていたか分からんが,同じ時を過ごしてくれない今となってはそれも出来まい。」
「やけん今晩は二人で寝りって言っとるそ。」
入江はせっかく時間をくれてやったのに何のこのこ戻って来てんだと腹を立てた。
桂はやっぱり入江の思考が分からなくて難しい顔をした。
「お前はどうして私にまで気を遣う余裕があるんだ?私にとってお前は妬みの塊でしかないぞ。」
「私をそんな風に見てたんですね。」
分かってたけどもと目を細めて桂を睨んだ。
「お前の方が松子に好かれてるからな。」
あからさまな嫉妬に入江はしょうがない人だなと盛大な溜息をついた。
「私が気を遣っちょるんは木戸さんに対してやないです。松子に対してです。
私達は想いを確かめ合って添い遂げる覚悟もした。でも夫になったのは貴方です。
私らに配慮をいただいてこの関係に落ち着いてますが,どうなれば松子が一番幸せやと思います?
私は松子に幸せな道を選ばしてやりたい。可能性を見出してやりたい。
でも貴方と夫婦である事だけは変えれんのです。
その中であの子が幸せやと感じれる道を模索しちょるんです。
このまま私ら二人の間におるのがいいのか,貴方の元に戻るのか。」
確かに荷は重かったのは分っちゅう。別れた男と久しぶりに対面して更には国の為に説得してくれ言われとるんじゃき。」
「もう俺ら頭上がらんっちゃ……。」
高杉は胡座に頬杖をついてふぅと息を吐いた。それからちらりと三津に視線を寄越した。
「行きも帰りも奇兵隊のみんなに武器は渡るのかってずっと心配しよった。」
それを聞いて入江が“あっ”と声を洩らした。【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
「どした九一。」
高杉が不思議そうに入江を見ると入江は三津の手を強く握り苦悶に顔を歪めた。
「私が……話したからか……。三津に会いに行った時,戦になった場合の話をした。武器が必要だと話した。やけぇ三津は私らの為に……。」
「それでその事ばっか言いよったんやな。あとは早く帰らんと仕事がって言うけん。」
「真面目か。それで日も昇らんうちから帰って来たそ?」
やっぱり三津も普通じゃないなと高杉が笑うと中岡がそれにも理由があると言った。
「日が昇らんうちにってのは新選組に見つかりたくないのと桂さんに引き止められんようにじゃ。どうしても元には戻れんらしい。」
そう言ったところで中岡も大きな欠伸をした。
「すまん。実は私も寝とらん。」
坂本の気持ちが高揚して朝まで熱弁されそのまま三津を迎えに行ったのだ。「坂本さんも相変わらずやな。セツさん中岡さんにも部屋用意しちゃって。急がんのやったら今日は休んでいき。」
高杉の気遣いに中岡も流石に疲れを滲ませてそれに甘えると言った。
「お三津ちゃんは起きたら一番風呂させてあげて今日は存分にもてなしてあげてよ。」
幾松は高杉達にそう命令して風呂場を掃除してくるわと部屋を出た。中岡はセツに別室に案内され,他の面々も三津を入江に託して部屋を出た。
「……元には戻れんか。会っても心は動かんかったん?もう一度傍で支えようって気にはならんかったん?」
起きたら沢山話がしたい。それまではゆっくり休んでくれと額に唇を寄せてそれから起こさないように少し離れて静かに過ごした。
『暖かい……。懐かしい匂いがする。』
目を覚ました三津は寝るまでの記憶が全く無かった。布団に入っている状況から寝たんだなと思った程度。
まだ気怠さの残る体を動かせないまま,目だけで周囲を確認した。
すると傍で胡座をかいて本を読む入江の姿を見つけた。
「九一さん。」
その声にはっと顔を上げた入江は嬉しそうに笑った。
「ちょっとは楽になった?無理し過ぎや。」
本を置いて傍に近寄った入江はおはようと額に口づけを落とした。
「どれぐらい寝てました?中岡さんは?」
ゆっくりと体を起こして帰っちゃったの?と中岡の姿を探した。
「中岡さんもだいぶお疲れで別の部屋で休んどる。ちょっと待ってて。幾松さん呼んでくる。」
起きたら知らせるように言われてるんだと言って入江は三津を残して部屋を出た。
少しして幾松が湯浴みの用意一式を持ってやって来た。
「お風呂入るで!その後はご飯!今日はもてなすから!」
「は?え?何で?」
「何でも!」
幾松は黙ってついて来いと三津を引っ張り風呂場へ行った。
「え?待って?幾松さんも一緒に入るの?」
着物を脱ぐ自分の横で同じように脱ぎ捨てる幾松を呆然と見た。
「背中流してあげる。」
幾松はにやりと笑って三津が身に付けている物全て引っぺがした。
「ホンマにどんだけ激しく抱いてんのよ。」
背中や腰にまで薄っすらある痣に呆れ返った。三津は幾松の方へ振り返ってこれでもかと頭を下げた。
「ごめんなさいっ!あの人は幾松さんと結婚するって約束したんですよね?それやのに……ごめんなさい……。」
「あぁ……。別に気にしてへんよ。これが最後なんやろ?私それぐらいは許せる女やから。はい,入った入った。」
幾松は平然とした態度で三津を浴場に押し込んだ。
三津の口が急に悪くなり入江は口を半開きにしたまま淡々と言葉を並べる三津を見ていた。
「武士って言うか男の人?別に男の人でも痛けりゃ痛いって言えばいいし泣きたきゃ泣けばいいし,誉れか何かは知らんけど切腹なんか阿呆らしいし,それよりもどんなに不恰好でも生きてた方がいいし。」
「私は説教されてるの?」
入江の問いかけに返事もせず三津は一方的に喋り続けた。【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
「吉田さんかてホンマに勝手!私の事好きって言ってた癖に,置いて逝かへん言うた癖に,最後は杉山さんとの約束優先したでしょ?えっ私吉田さんに振られたって事ですよね?」
「あ,愚痴なのね。」
いいよ聞くよと微笑んで握っていた手を引いて胡座をかいた上に頬杖をついた。
「好きって言いながら振っといて,それでも来世は一緒になろうってどんだけ勝手なん?ホンマに……勝手っ!」
言葉と共にぼたぼたと涙が落ちた。
「ごめんなさい……。泣きたくないんですけど,やっぱりまだ……気持ちの整理が……。」
入江は腰を上げて膝で立ち,三津の頭を優しく撫でてそのまま両腕で包み込んだ。
「えぇ……分かりますよ。もっと辛いと言ってもいいのにそう言わせてあげられない状況を作ってしまい申し訳ない……。」
三津は腕の中で首を横に振った。
「入江さんは?入江さんも言うたらいい。思ってるホンマの事。言わな分からん……。
今日は……ただ一緒に居たいだけならそれでいいですけど,でも溜めてるだけやと何も変わりませんよ。
私も新ちゃんの時そうやった。吐き出さんと苦しいだけ。」
泣いてぐちゃぐちゃなこの顔を笑われてもかまわない。入江が本心で笑ってくれたらそれでいい。顔を上げてじっと目を見て話を続けた。
「私新ちゃんが死んで生きる意味なくて,おまけに新ちゃんの妹にもそのあと追わせて亡くしてもて,何度も死にたいって思いながら無理して生きて。
嫌な事に蓋してきたけど,それをちゃんと吐き出せるようになって楽になったんです。
今回も別れがあって苦しくてしんどいけど,でもまだこうしておれるのは入江さんやみんなが居てくれるから。
だから入江さんにも楽になって欲しい。吐き出して欲しい。」
涙ながらに訴えた三津の目には観念したように笑う入江の顔が映っていた。
「そりゃ辛いですよ。喧嘩したり馬鹿騒ぎしたり真剣に語り合ったりしてきましたから。稔麿とは。」
入江はぽつりぽつりと吐き出しはじめた。「本当は後悔してる。あの時引き止めれば良かったって。もう遅いのにずっとそれが頭から離れない。
それでも周りはもう次へと動いていて感傷に浸る間もなくて……。いや,浸らずに次へ目を移した方が楽なのだと思っていた。だけど心が伴わないんだ。」
入江の声が震えてやがてすすり泣く声に変わった。三津は子供をあやす様に入江の背中を擦った。
「松陰先生の時と同じだ……。気持ちを置いてけぼりにして次へ向かう。抜け落ちた気持ちを見て見ぬふりして。行かなきゃいけなかった……。」
泣き言を言ってる場合じゃない。仇を取るんだ。悲しむんじゃない。それを糧に,動力にして突き進むしかないと思っていた。
そんな入江に三津はさらに促す。
「武士として,男として弱音を吐きたくないとか思ってるならそんな考え捨ててください。さっきも言いました。その考え面倒臭いんです。
男ならはっきりきっぱり言ってください。」
『そうじゃなかったのか……。素直に辛いと吐き出せば良かったのか……。』
それが出来る環境にいたならこんな精神状態にはならなかっただろうなと入江は三津の肩に顔を埋めて笑った。
『だから武士は……男は面倒臭い……そうか……。』
確かに男として本来なら女に縋りついて泣くような真似はしたくないと思う。でも三津はそれも馬鹿な考えだと否定してくれるようだ。
「いつまでも引きずって,その挙句に縋りついて泣くような男を女々しいと軽蔑しませんか?」
「しませんよ。そうやって気にしてうじうじしたまんま自分の殻に閉じこもるような人なら嫌ですけど。
でも恥を忍んで本当の自分を見せられる人は強い人やと思います。だからその姿を私に見せてくれた入江さんは強い人です。」
こんな情けない姿晒して何が強いだくそったれ。そんな悪態を心の中でついたけど,それとは裏腹に本当は凄く嬉しかった。